償いノ真夏─Lost Child─


──ふと、眺めていた机に黒い影が被さる。


「ねぇ、朝霧さん」


顔を上げると、クラスメイトの女子が数人、小夜子を囲うように立っていた。

普段話しかけてくるはずのない人間に囲まれ、小夜子は激しく動揺した。

彼女達が〝善意〟で小夜子に声を掛けることはない。

その動揺を悟られぬよう、小夜子は膝に置いた拳を握った。

「えっと……なに?」

そう聞き返すと、その中の一人があからさまな嫌悪感を剥き出しにした。

「ねぇ、深見くんが転校生で何も知らないからって、彼に取り入ろうとしてるでしょ」

「!」

「いいよね、朝霧さんは綺麗だもの。男の子を味方につけるのなんて簡単だよね。深見くんだって、その辺は他の男子と変わらないだろうし……」

小夜子が彼女らの言葉を黙って聞いているので、彼女らの悪口はどんどんエスカレートしていく。

しかし真郷の名前を出された時、小夜子の目の色が変わった。

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