償いノ真夏─Lost Child─
「……さいわ」
「え?な、なによ……」
「うるさいって言ってるのよ!」
それまで膝の上で震わせていた両の拳を、小夜子は勢いよく机に叩き付けた。
その音と行動に驚いて、女子達は息を飲んだ。
そんな彼女達を、小夜子は鋭い眼差しで睨み付けた。余りにも普段の温厚さとはかけ離れた小夜子に、誰もが唖然としていた。
「何も知らないあなた達が、気安く彼の名を語らないで!」
小夜子は毅然としていた。いつもなら黙って耐えているだけの彼女がそのような態度をとったことに、クラスメイトは信じられないといった表情を向ける。
そんな異様な雰囲気に包まれた静寂を破る者があった。
「ねーえちゃーん」
それは夏哉だった。教室の入り口にもたれ掛かるように立って、彼は気だるげに小夜子を呼んだ。
「遅いから来たんだけど。早く帰ろうぜ」
「ナツ……」
小夜子はホッとしたように、表情を和らげると、荷物を掴んで夏哉の元へ駆け寄った。