償いノ真夏─Lost Child─
夏哉は小夜子を先に行かせると、教室を見回した。
全ての視線が自分に注目しているのを確認すると、暗い瞳でそれらを一瞥し、小夜子の後を追った。
「姉ちゃん、大声出すなんて珍しいな……。なんかあったのか?」
小夜子は、そう問い掛けた夏哉に対し、俯いたままの姿勢で声を絞った。
「だってね……せっかく、せっかく『まさとくん』に会えたかもしれないのに、あの人達が邪魔しようとするから……」
「……」
「それに!私のことだけなら何と言われようが我慢できるけれど、あの人達が彼の名を語ったのが許せないのよ!何も知らないくせに……彼への侮辱は許せない……だから……」
小夜子は両手で顔を覆った。小さく上下する肩が、余計に夏哉を不安にさせる。
「姉ちゃん……」
小夜子の深見真郷に対する執着は、どこか病的な危うさがあった。
夏哉はそんな姉が心配だったが、それ以上は何も言えなかった。