償いノ真夏─Lost Child─
「朝霧さん!」
呼び止められ、歩みを止める。
「よかったら……一緒に帰らない?」
思いもよらない誘いに、小夜子は驚いた。
あの、普段から人を寄せ付けない真郷から〝一緒に帰らない?〟などという言葉が聞けるなんて、誰が想像できただろう。
これに、もちろん小夜子は首を縦に振った。すると真郷は心底安堵したように微笑んだ。
それから、二人で肩を並べて歩いた。何か話さなくてはと思うが、小夜子は緊張してしまって、それどころではなかった。
しかし、なんとか話題を作ろうと、相手の顔色を探る。ちらりと隣を見ると、ちょうど目が合ってしまった。
「深見くん、東京から来たんじゃあ、この村なんて退屈でしょう?」
やっとのことで絞り出した声は、平静を装っていても震えていたかもしれない。
「いや、そんな事ないよ。静かだし、空気は美味しいし」
「空気?」
「うん。あっちは排気ガスとかタバコとかでけっこう汚れてるから」
真郷は懐かしむようにそう答えた。その横顔に、小夜子は少し寂しさをおぼえる。
「朝霧さん、この村から出たいの?」
真郷の質問に、小夜子は曖昧に笑った。
「出たいよ……。叶わないだろうけど……」