償いノ真夏─Lost Child─

その瞬間、雨が激しさを増した。小夜子の掠れかけた声は、雨音に吸い込まれる。

「ごめん、朝霧さん、今なんて──…」

真郷は怪訝な顔をしていたが、小夜子はその問いに答えなかった。

届かなくていい、きっと、知られない方がいい……そう思っていた矢先、視界にあるものが映った。

「深見くん見て!あれ、ナツじゃない?」

畦道の端には道祖神を祀る小さな祠がある。そこにうずくまっている人影は、まさしく夏哉だ。

二人は祠へ向かって走った。

「ナツ!」

小夜子が呼び掛けると、夏哉は気付いて立ち上がった。

「ずぶ濡れじゃない!どうしたの?」

問い掛けながら、小夜子は自分の鞄からタオルを取り出して夏哉の顔を拭う。

真郷が傘を差し出すと、夏哉の胸元から一匹の仔犬が顔を出した。

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