償いノ真夏─Lost Child─
頭を下げると、夏哉は仔犬を真郷に渡した。
仔犬を受け取った真郷は、強く頷いた。それから仔犬をタオルでくるみ、抱き抱える。
「朝霧さん、傘とタオル借りてくね」
「う、うん!」
深見屋敷へ走り出す真郷の背を、夏哉は見えなくなるまで黙って眺めていた。
そして、ぽつりと呟く。
「けっこう良い奴なのかも……」
そう言った夏哉の顔は、少し嬉しげだった。
「かもじゃないわ。良い人よ」
「……そうだな。あの人がホントに姉ちゃんの探してる奴なら良いのにな」
夏哉はくるりと背を向けた。
「帰ろうぜ、姉ちゃん」
きっと夏哉は晴れやかな表情に違いない。
小夜子は夏哉を追い掛けて、自分の傘に入れた。
「うん。帰ろう、ナツ」
小夜子は知っている。他人に対して時おり冷たく振る舞うのは、夏哉の不器用な優しさだ。
夏哉は自分自身よりも、姉である小夜子を大事にしていた。その理由の根本には、きっと幼い頃に出ていった母がいるのだろう。
それに気付いているからこそ、小夜子は夏哉の依存にも似た親愛を拒まない。
雨の音が、深く心に沈んでいくのを感じた。