償いノ真夏─Lost Child─
それはまるで、男を誘い込む花園だ。
だがその純白を覆い隠すように、首から巻かれた包帯が違和感を生む。
父は目を細めた。
「小夜子、おめぇ、もしや……」
「だ、だめ!お父さん!」
小夜子の抵抗もむなしく、父は傍にあった鋏を手に取ると、包帯を両断した。
──悪夢だ。
小夜子の隠し続けたもの。
そこには、青黒い蛇の鱗のような模様が広がっていた。それはまるで、小夜子の身体に大蛇が巻き付いているかのようだった。
「こりゃあ……」
父が息をのむ。暫く唖然としていたが、ふいに彼は笑い声を上げた。
「ふふ、ひひひ、ははははは!」
父の奇行に驚いた小夜子が茫然としていると、父は言った。
「まさか、本当にオシルシがでるとはな!それも俺の娘に!今度は実の娘に!」
「お父さん──何を言って……」
「小夜子ぉ、それが出たらお前ももうこの村から、俺から逃げることなんかできねぇぞお」
狂気の宿る、らんらんとした瞳が小夜子を捉える。
「お前が巫女になったことは偶然じゃねえ。呪いだ。この村の、村人の、俺の、すべての業がその呪いだ。お前は村の一部になったんだ。わかるか?」
「いやっ!聞きたくない!」
一瞬の隙をついて、小夜子は父を跳ね除けると家の外へ飛び出した。
ただただ、恐ろしかったのだ。
父の目に宿った狂気が。
得体の知れない自分自身が。
しかし、庭に出て茫然とする。
そこにはすでに、何人もの村人たちが集まっていた。そして、さらけ出された小夜子のオシルシを見て、口々にこう言った。
「やはり朝霧の娘が巫女じゃった」
「夜叉様の花嫁様じゃ」
「お連れせよ。お連れせよ」
小夜子はそのただならぬ雰囲気に圧倒され、その場に膝をついた。
それは、かつて自分と対峙していた村人たちとは違った。小夜子を見る瞳は、どこか陶酔したような、畏れたような……そう、強いて言えば〝人間を見る目〟ではなかった。