償いノ真夏─Lost Child─

それから間もなく、祭りの終焉を告げる雨が降り出した。
あれほど賑わっていたのが嘘のような静寂が訪れる。

そして、それは小夜子にとっての本当の悪夢の始まりでもあった。

舞の奉納後、控えの部屋に戻った小夜子を待ち受けていたのは、村長だった。

「見事な舞でございました、小夜子様。これより、最後の儀式へと移ります」

「最後……って……ッ!?」

直後、何者かによって背後から目隠しをされた。わけもわからぬうちに両手も拘束され、身動きが取れなくなる。

「なにをするの!?ほどいてください!もう私の役目は終わったはずです!」

そう声を上げると、村長はふぅとため息をついた。

「これからもっとも大切な儀式がございますよ。夜叉様と結ばれる──〝初夜〟でございますから」

「なっ──!そんな、こと……」

信じられない言葉と、これから行われるであろう行為を想像して後ずさると、誰かに当たった。それは屈強な男の身体で、小夜子は小さく悲鳴をあげた。

「やめてください!こんなこと……こんなこと間違っています!」

「すべて村のしきたりです。誰も逆らえない。私とて、娘を差し出しました」

「み……美那江お姉ちゃんを……!?」

奥歯ががちがちと音を立てる。震えてしまう。恐ろしくて、これが現実なのかわからなくて。

崩れ落ちる小夜子を、両脇から男たちが抱えると、どこかに連れて行く。押さえつけられ、抵抗することもできない。

「狂ってる……この村はみんな狂ってるのよ!」

小夜子の叫びは、誰の耳にも届かない。助けてくれる者などいない。
ここはこの世の地獄に等しい。

小夜子は目かくしのまま、神社の外に連れ出された。外の様子がわからないまま怯える彼女を、支えていた手が乱暴に押さえつけた。背中に当たるごつごつした堅いものは、おそらく森の木だ。

そして、肌には雨が触れている。

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