償いノ真夏─Lost Child─

そして、次の瞬間、なんの前触れもなく胸元に手が割り入ってくる。

「いやぁ!やめて!助けて……」

雨音が、悲痛な声を吸い取る。

いくつもの知らない手が、小夜子の身体を弄び、這いまわる。涙が零れても、優しく拭ってくれるものなどなく。

雨に濡れて冷えきっていく体温とは裏腹に、下肢が疼いて、熱い。

それがおぞましくて、気持ち悪くて、小夜子は両足をきつく閉じた。しかし、その間を割るように、何かが侵入してくる。ぬるりとしたその感触は、爬虫類の皮膚のようだ。

〝ヨウヤク手ニ入ル……愛シキ花嫁……〟

「嫌……!入ってこないで……許して!もう……」

身をくねらせるが、ソレは止まることはない。小夜子の服の中に忍び込んだ蛇は、やがて身を潜める茂みを見つけ出した。

「痛い……あっ」

だれも触れたことのない、一番大切な場所。はじめては、愛する人に捧げたかった。
蛇は容赦なく、そこへ潜ろうとしてくる。

痛みと共に、自分の中で何かがぷつんと音を立てた。
小夜子の両足の間から、鮮血がしたたり落ちる。

「痛っ……痛い、やぁ……ぁ、あっ、あっ」

律動と共に、小夜子の唇から嗚咽が漏れる。圧迫感と痛みに襲われ、小夜子は泣き叫んだ。

「お願い抜いて……もう、許して……!」

もうわけもわからなかった。ただ、わけもわからずに喘ぎ続けた。

「ま……さとく……っ」

真郷なら、きっと優しく抱いてくれただろう。いいや、乱暴でもいい。本音を言えば、ずっと昔から真郷と繋がりたかった。愛してほしかった。深く、深く。

脳裏に思い浮かべるのは、真郷の姿だった。せめてそう思うことで、小夜子は正気を保とうとした。

< 276 / 298 >

この作品をシェア

pagetop