償いノ真夏─Lost Child─



小夜子はあの日以来、悪夢に悩まされ続けていた。身体に大蛇が絡み付き、のたうち、凌辱される夢だ。そんな夢から覚めるとき、小夜子は必ず宙に向かって手を伸ばしていた。自分でも無意識に、助けを求めていたのだ。

「真郷くん……」

その名前を口にすれば、不思議と落ち着いた。同時に、自分の中に入り込んだ大蛇が静かになるような気がした。

小夜子はまだ、真郷を愛していた。

あの時、真郷は助けに来てはくれなかった。それでも、まだ彼を信じ続けていた。

「真郷くんは約束を破ったりしない……」

クマのぬいぐるみを抱きしめる。そうすると安心した。それだけが、真郷と小夜子を繋ぐ唯一だった。

実際、あの祭りの夜の出来事を忘れたわけではない。忘れようとしたところで、そんなことは不可能だ。この身体にはすでに覚えている。

他人から汚される屈辱も、同時に与えられる醜い快楽も。

小夜子を少女から女にしたのは、愛するひとではない。この世のものならざる、この地に根付く呪いだ。

ならばその呪いは、いずれこの村に返してやろう。
自分から愛する男を奪い、純潔を奪い、大切な弟にまで手を出した、憎い夜叉淵に。


小夜子は村人に変わらぬ笑顔を見せる一方で、淡々と彼等を呪っていた。


< 281 / 298 >

この作品をシェア

pagetop