償いノ真夏─Lost Child─
やがてその脈動は、自制のきかぬ慟哭と化す。
「なにも……しらないくせに……」
俯いた小夜子が呟く。
この時、りなはまだ自分の愚かさを知らなかった。
「どう?ようやくあたしの気持ちがわかった?あなたには一番は似合わないのよ。あなたは誰の一番でもないの。深見くんだってあたしを選んだんだから」
もちろん、そのような事実はない。実際は真郷は小夜子しか見えていなかったし、自分など微塵も相手にしなかった。──だから、よけいに腹が立つのだ。
りなが勝ち誇ったように笑ったのと、ほぼ同時だった。ぶん、と目の前で風を切る音がした。次の瞬間、顔面に強い衝撃が走るのと同時に、彼女はその場にしりもちをついた。
「なんだぁ……そうだったんだぁ……ぜんぶ、あんたのせいなのね……」
りなは驚愕した。自分は小夜子に殴られたのだ。それよりもっと驚いたのは、眼の前の小夜子が笑っていることだ。
「二度と真郷くんには近づかせない……」
小夜子は投げ出された買い物袋から転がり出た酒瓶を手に取った。そして、りなを押さえつけるとソレを振り上げた。
「ぐちゃぐちゃにしてあげる……こわしてあげる……」
ぶつぶつと呟くその姿は、りなの知っている小夜子とは別のものだった。
「っ!? ……やめてぇ!」
りなは叫んだが、小夜子はその哀願に答えぬまま、容赦なく手にした狂気を振り下ろした。