恋のはじめ
泣いちゃだめ。
自分にそう言い聞かせ、ほんの少しの時間の流れを確認した。
と、たまたまなのか、見張っていたのかは分からないが、監察の山崎がずっとしゃがみこんだままの咲希の側へやって来た。
「どうかしましたか!?」
音もなく突然のことだったため、驚く咲希の感情は放って「傷が痛むんですか!?」と肩の心配ばかりした。
「だ、大丈夫です」
そう言う咲希の声は震えており、「大丈夫」の説得力なんて微塵もなかった。
「やはり痛むんですね!?包帯巻き直しましょうか!?」
「違うんです・・・・」
そんな小さな声は山崎の動きを止めた。
違う。
肩の痛みなんてどうでもいい。
自分の情けなさに、涙が出る。
「山崎さん!!」
涙を堪えたような潤んだ目が山崎へ向けられる。
緊迫な情況に、山崎も真剣な眼差しで咲希の次の言葉を待った。