恋のはじめ
「・・・一周した?」
細く漏れる咲希の言葉に間違いは無かった。
考え事をしているうちに屯所内を一周し、また戻ってきていたのだ。
いや、考え事とこれとは関係がないかもしれない。
咲希は、資料室の場所を知らないのだ。
「しまった・・・・」
落胆とともに所構わずしゃがみ込む。
きっともう正午の時間は過ぎている。
自分から頼んだにも関わらず、たどり着けないとはなんて情けない。
咲希は頭を抱え、解決策を考えるより、自分で自分を罵った。
仕方なく部屋に居る室に聞こうと試みる。
ゆっくりと重い体を足で踏ん張り立ち上がる。
そして襖に手を掛けたその時。
気配もなく誰かに体ごと引っ張られ、阻止された。
「資料室はそこではない」
低く、小さな声が耳元で囁かれるとほぼ同時に、咲希は勢いよく振り向いた。