恋のはじめ
山崎は扉を開け、咲希が入るのを待った。
そして、パタンと最小限に抑えられた音とともに閉めた。
「島原事件の報告書はこちらです」
言って奥の冊子を取り出した。
『島原事件』と書かれたそれは、咲希の心拍数を倍にした。
「私は待機組だったので、その場の状況までは存知ていませんが・・・」
ペラペラとめくり、過去の記憶を思い出す。
そして、ゆっくりと説明を始めた。
「1963年3月、新選組を結成して最初の事件でした」
咲希は唇を噛み締め、床を見つめたまま静かに山崎の話に聞き入った。
「あの日、巡察に出ていた三番組がちょうど島原屋付近を通りかかり、中で浪士共が暴れているという噂を聞き、そのまま御用改めしたそうだ」
「そのまま?」
疑問に思った言葉の語尾に「?」をつけて聞き返す。
「はい。一刻も早く客と主人を助けたかったのでしょう。ですが、副長命令すら出されていない中でしたので、組長はお叱りを受けたようです」
「・・・・・あ、あのえっと・・・・新選組・・いや、その・・・三番組の・・・」
聞きたいことがいっぺんに押し寄せてきたため、どれを先に消化すればいいのか分からず、戸惑いながら口を開いた咲希の心情を呼んだのか、山崎は「落ち着いてください」と少しばかり微笑んだ。