恋のはじめ



ゴホンと一つ大げさに咳払いをし、気を取り直して山崎に向き直る。



「三番組組長は、斎藤一・・・さんですよね?新選組が突入した時にはもう戦いは始まっていたんですか?」



「戦いというより、仲間内で揉めていたと言った方が正解でしょう。まぁ、既に刀は抜かれていたそうですが・・・それに新選組が突入したため、状況が悪化したというところです」



山崎の丁寧な説明に、咲希は考え事のため、しばし沈黙を作った。



そしてまたすぐに口を開いた。



「ち・・・父は、その時どうしていたのですか?」



そんな質問に、山崎は「来たか」とでも言うように報告書に目を向けた。



「島原宗弘は・・・どうやら新選組突入前に、その揉め事を止めに入っていたようです。そして、そこで・・・・」



「す、既に死んでいたというのですか!?」



荒々しくなる咲希の口調に、山崎は驚いて慌てて否定した。



「いえっ新選組がやって来た時は死亡者が居たとは記されていません」



再び黙り込み、首を下げて床を見つめる。



「新選組は・・・・父が島原屋の主人だと分からなかったんですか?安全な場所に避難させたりしなかったんですか?客を、父を助けるために御用改めしたんじゃないんですか?どうして父が死ななきゃいけなかったんですか!?」



だんだんと語尾が強くなり、悔しい感情が露になっていく。



何も答えられずにいる山崎の複雑な表情は、咲希とのこの空間の気まずさを表している。



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