恋のはじめ
混乱し始める山崎をよそに咲希は声音を変えずに続けた。
「安心してください。もう復讐なんて考えてませんから・・・」
「い、いやそんなことじゃなくてですね・・・・」
「他に何が?」と言うように半開きの口のまま首を傾げるその姿は、少女だった。
「えっと・・・何故辞めてしまうのですか?」
「え・・・・?」
一瞬で驚きの顔に変わり、立場が逆転する。
そして、悲しく笑った。
「居る意味がないからです。池田屋事件で気付いたんです。私の居場所はここではないと・・・皆さんとは住む世界が違う。皆、しっかりと誠を背負ってる・・・そう感じました」
「貴女には無いのですか?誠の文字が・・・」
静かで、低い山崎の声。
「・・・少なくとも、復讐しようと入隊した私にはありません」
目を閉じ、そう言った。
だが、
「今から背負うことは出来ないんですか?」
予想もしない山崎の言葉に、思わず目が開く。
「もしかして、止めてるんですか?」