恋のはじめ
「事は二年前です・・・島原事件で、私の父は新選組に殺されました」
回りくどいのは嫌いな咲希は、まずそう言った。
「私、見たんです。父が血まみれで倒れているところを・・・父の元で泣き叫んでいると、新選組隊士が一人やってきました」
返事一つしない二人に、咲希の声だけが響く。
「私はその隊士に刀を向け、斬りかかったのですが、もちろん敵うはずもなく弾かれました。私はその場でその男を殺すつもりでした。でも、剣術なんて全く知らない私が出来るはずもなく・・・・なので、叔父の元で剣術を習い、あの日の敵をとるために新選組に入隊しました・・・・」
小さな声。
だけど、一文字と逃すことなく二人の耳に入った。
「そうだったのか・・・」と同情の眼差しで言う近藤に、少し怒りを覚えたが、すぐに抑えた。
「でも!!数ヶ月ここで過ごして気付いたんです。私に復讐などする資格はない。私の居場所はここじゃない・・・」
「まぁ、そうだろうな。お前は女なんだ。ここに女が居ていいはずがない。何も言わねえから出て行け」
「え・・・?」
正直、土方の判断に驚いた。
咲希だけではない、隣に居た近藤までも土方へと首を回し、目を見開いていた。
それを分かって、大雑把に説明をした。
「どうやら間者って訳ではないらしいから、軟禁する必要もない。だったらとっとと出てってもらったがこっちも助かる」
ため息交じりのその言葉は、切腹を命じられるより何故か辛く感じた。