恋のはじめ
咲希の瞳は土方から下ろされ、畳だけを映す。
そして、静かに立ち上がろうとしたその時だった。
「へぇ。軟禁もしないんだ?」
いつの間にか開いている襖に寄りかかる沖田の声がした。
咲希の浮いていた腰も自然とまた重力任せに正座となる。
「総司!聞いていたのか」
思いもよらぬ人物の登場に、土方の眉間の皺が増える。
だが、土方の質問に一切答えることをせず、言いたいことだけを放言した。
「今まで騙されていたんでしょ?間者じゃないって保証はどこにもない」
「沖田さんっ・・・」
沖田の発言に裏切られた気分となった咲希は、対処のしようがなく眉を下げて助けを求めるような顔をした。
「間者なのか?」
土方の更に低い声が咲希へと問いかける。
「違います・・・仲間なんて、いません」
悲しそうな表情で言う咲希に、土方はどうも嘘をついているようには見えなかった。
「だったら、早く出て行け。別れの言葉などもいらん」
厳しい言葉に再び立ち上がろうとするが、それを沖田が止めた。
咲希の起立を拒むかのように、無言で顔の前に右手を広げた。