恋のはじめ
「何故泣く・・・」
困ったようにため息にも似た言葉を吐く。
咲希は両手で顔を覆い、くぐもった声を出した。
「何で・・・・斎藤さんなんですか・・・」
それだけでは何も伝わらない。
だが、斎藤はあえて何も言わず、黙って次の言葉を待った。
「あの日であった隊士が、斎藤さんじゃなきゃよかったのに・・・・」
言って大声で泣き崩れた。
それをそっと腕の中に収め、低く静かな声を浴びせた。
「すまなかった。あの日、アンタの父親を守ることができなくて。アンタは新選組に殺されたと言っているが、正直浪士が殺ったのか、うちの隊士が殺ったのかわからない。責任は全て俺が持つ。すまなかった・・・何でも言ってくれ」
ふいに目が合う。
抱きしめられている状態なため、すごく顔が近い。
咲希はそのまま心音を上げながら、ゆっくりと口を開いた。
「私・・・・やめたくないです・・・ここを、新選組を離れたくないです・・・」