記憶×喪失

第一章

ワタシっていったい誰ですか？

「現在、意識不明の重体で…」
テレビのニュースでは、この事件を大々的に取り扱っていた。どこの番組も、この事件に巻き込まれてしまった一人の少女の命を心配していた。
事件はとても大きく、複雑であり、巻き込まれた少女がたとえ意識不明でも生きている状態であるのはとても幸運だと言えるだろう。

「私って一体誰ですか？」
そう、目が覚めた時に私の傍にいた女性に話しかける。
女性は大きく目を見開いた後、哀しそうに顔をゆがめて言った。
「貴方は、渋谷さやか」
そして、彼女は泣き崩れてしまった。
彼女の背をさすろうと今まで寝ていた体を起こそうとする、が体が動かない。
自分の体を見てみると、点滴や包帯がたくさん張り巡らされていた。
渋谷さやか、それは私の名前なんだろう。
どうして自分の名前もわからないんだろう。そういえば、ここはどこで彼女は誰なんだろう。
何も分からない。せめて家族に会えれば、色々問い正せるのだろうに。
と思って自分の家族を思い浮かべようとした。けれど無理だった。
一体、何なの。この状況は。
何も分からなくて、何も知らなくて、思い出せない。
これは、何？