記憶×喪失
「この栗色のふわふわが天野ちさ、髪が短いのが仙台千種。こっちの淡々としたのが能登和馬で、こいつが…貴方の恋人の、荒川ゆうた。」
病室の備え付けのメモに漢字を書きながら教えてくれる。
私の、恋人…
「…ゆうた、さん」
「呼び捨てでいい」
「ゆうた」
「ん。」
あまり意味のない慣れあいと思われるかもしれないけれど。
これは彼に対する感情を失くした事を謝罪する意味もある。
「でも、じゃあ、ゆうくんとの思い出は!?」
「ちさ、声を大きくしないで。病院だよ」
千種がちさを再びなだめる。
「思い出…」
目を閉じて、思い出とやらを浮かべようとする。
けど、分からない。
「思い出って」

「いったい何ですか?」
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