記憶×喪失

ココっていったい何処ですか?

「少し、お訪ねしてもよろしいですか」
そういうと、どうぞという声が私にかかる。
「此処って一体何処ですか?」
病院なのはわかる、けど。
どこの病院なのかが知りたい。
「貴方のお父さんが院長をしている病院、とても大きくて有名な病院なの」
…ということは、私のお父さんは医者、ということになる。
「へぇ…」
感嘆の息が漏れた。いくら自分の父とはいえ、今聞くまでその人を欠片も知らなかったのだから当たり前だろう。
「…でも、貴方は…」
そう言って、彼女は口を噤んだ。失言は見逃すのが礼儀だと思ってきかないふりをした。とても、とても気になるけど。

「私は、事故に?」
「ええ…とても酷い事故だわ。貴方が今生きている事が不思議なくらいにね」
自分が事故に巻き込まれ生死をさまよっていた事も教えてもらった。通りで体のあちこちが痛いわけだ。
「それにかかわった人は貴方以外ほとんど即死。貴方が生きていて、本当によかった」
涙をぬぐいながら嬉しそうに笑う彼女はとても素敵。
私は、生きていてよかったと思った。
たかが私が生きているだけでこれだけ喜んでくれるなら、喜んで生きようと思った。
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