ワケがありまして、幕末にございます。
「彼には足音がない。
それも無意識に、です。
そんなことが出来るのは幼少の時から訓練を行った、あるいは特殊な環境で育った者だけだと。
私は前者だと思うのですが。」
「…そういえばそうですね。
愁くんと呉服屋に行った時、なんか変だと思ったのは足音がなかったからだったんですね〜」
「ふぅむ…」
「しばらく監視しましょうか」
…アタシ、無意識にそんなことしてたんだ…
…凄くね?
え、凄いでしょコレ、地味にどや顔したいんですけど。
そんなアタシがいると知らずに話はまだまだ続いている。
「どうするトシ…」
なんとなく悲しい声色。
心配させちゃったかな、ごめんよ近藤さん…。
「いや、監視は必要ねぇ」
「…!!
ですが…」
「俺もそう思ってたがな、アイツは俺の目を見て堂々言いやがったんだ。
“敵なんてありえない”ってな。
あの目に偽りはなかった、むしろ俺が気圧された程だったよ」
「…そうか。
まぁトシが言うなら大丈夫だろう。
山崎君、心配かけたね」
「いえ、差し出がましいことをしてしまい申し訳ありませんでした」
「んや。
アイツは…市村はもう新撰組だ、何も問題ねぇよ」