ガラスのカケラ
「そうなんだ…」

頭の中の複雑な思いとは裏腹に、私はそれ以上何も言えなかった。

大変なんだろう。きっと淋しいんだろう。

しかし、それよりもお父さんの残した約束を守り続ける健輔の意地らしさが私には一番悲しかった。

しばらくの沈黙の後、「僕にはこれがあるから淋しくないけどね!」

健輔はあっけらかんと言い放って、もう一度ギターを弾き始めた。

ベランダから入り込む夏の日射しがスポットライトのように健輔を照らしていた。

穏やかで、どことなく憂いを含んだ時間がゆっくりと流れていた。
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