『王恋』☆ハロウィンは恋ざかり☆
「私、待ち合わせをしているのです ですからどうか……」


どこかへ消えて欲しいと言っているのだろう。


「どなたを待っているのですか?もう30分以上もここにいるのでは?」


「ぇ……」


「上から見ていたんですよ 貴方はずっとここに座っている」


マリー・ルイーゼは困ったように付き人の女性を仰ぎ見た。


「く……来るのが早かったのかもしれません」


来るのが早かった?


彼女は何を言っているんだ?


「待ち人はお付きの方に任せて、踊りませんか?」


エルンストは手を差し出すと、マリー・ルイーゼは手を引っ込めた。


その一瞬で、彼女の手が荒れているのが分かった。


「けっこうです お願いですから向こうへ行ってください」


おどおどしていた彼女は急に言葉を強めた。


「……わかりました」


エルンストは立ち上がり、もう一度彼女を見た。


彼女は俯いていたが、かすかに震えているのが分かった。


エルンストは軽く会釈をすると、その場を去った。


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