『王恋』☆ハロウィンは恋ざかり☆
俯いていた頭がゆっくりと上を向く。


真っ赤に泣きはらした目とぶつかり、彼女が可哀想になった。


「なぜ妻子持ちの男と関係を持とうとしたんだ?」


ハンカチをさりげなく彼女の目に当ててやる。


「……」


「貴方の事は知っている マリー・ルイーゼ・ヨハンセン伯爵の御息女」


「……では……父が亡くなった後の事もご存知でいらっしゃいますか……?」


エルンストのハンカチを手に、止まらない涙を拭いている。


「まあ、噂ぐらいは」


「……食べていくにはこうするしかなかったんです でも……あの方に触れられた瞬間、後悔しました……」


食べて行くには?そんなにもこの娘は困っているのか?


自分の周りにはそのような者はいない。


エルンストは愕然となった。


「学校へ行けなかった私に出来る仕事と言ったら……」


「もういい 何も言わないでくれ」


その時、マリー・ルイーゼの口から小さな悲鳴が漏れた。


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