Believe 〜大切なこと〜
「――、二人とも幸せに暮らしたのでした。めでたし、めでたし」
ありきたりな文章だが、和也は毎回違った感想を述べてくる。それも兄の俺が納得してしまうような感想で。
「ねぇねぇ、お兄ちゃん」
「何だ?」
さて、今日はそんな感想が飛び出てくるのやら。弟の感想に好奇心を抱きながら耳を傾けた。
「二人は本当に幸せだったのかな?」
落ち込んでいる友達に同情するように悲しそうな顔を見せる和也。その小さな頭に手を置いて、和也の言葉の続きを聞いてみる。
「だってさ、結局欲しいものは何も手に入らなかったんでしょ? せっかく頑張っていたのに、努力が無駄になっちゃったから……」
二人は本当に幸せだったのかどうか。俺が一人でこの本を読んでいたらそんなことを考えることはなかっただろう。
本の内容は、仲の悪かった二人の女の子がその山にあるという秘宝を求め、いくつかの試練を二人で協力して達成していく話だ。結果を言うと秘宝は存在せず、二人はがっかりして帰るのだ。しかし、二人は幸せに暮らしたという。確かに疑問に思う話である。
さて、どうだろう。俺は、この二人は本当に幸せだったと思う。何となくである。挿絵が幸せそうだから、なんてことを言うわけにもいかない。理由、理由を言わなければ……。
「二人ってさ、始めは凄く仲が悪かっただろ?」
「うん。凄く悪かった」
「でも最後は仲良くなっているよな」
「うん」
「何でだと思う?」
うーん、と考え込む和也。俺もその間、必死に自分の考えをまとめていた。和也がどう答えるかによって、俺の答えの返し方も変えなければならない。
和也がハッとしてこちらを向いた。さて、どのような答えになっただろうか。
「そっか、協力して試練を乗り越えていったからだね」
「そうそう」
助かった。これで全然違う答えを出されたらどうしようと思っていたから。ホッと胸を撫で下ろし、その答えに補足を付ける。兄らしさを見せられるのはきっと今ぐらいだ。文系教科全てが偏差値以下(理系も駄目だが)の俺の頭脳をフル回転。