Believe 〜大切なこと〜


 俺が今日持ってきた中で唯一読んでいない本が一冊あったので、それを読んだら寝ると約束した。俺も一緒にベッドに腰掛け、和也にも絵が見えるように絵本を読み始める。

 今度の話は何となく『走れメロス』と『桃太郎』に似ていた気がする。遠くに妖怪退治に行った少年と、その帰りを待つ母親の話。

「……、金治は母親とまた仲良く暮らすのでした。めでたし、めでたし」

 長かった。今度の話は挿絵が無いページまであった。しかも内容は中学校の教科書レベル。これ、和也は理解できただろうか。

「金治君が無事に帰って来られてよかったね」

「そうだな」

 今回の感想はこれで終わりだろうか。そう思っていた矢先に和也は疑問を口に出した。

「何度も立ち上がる金治は格好良かったけど、諦めようとは思わなかったのかな?」

 珍しいことに、この質問の答えは簡単である。俺は自信を持って答えてみせる。

「それはな、母親のためだ」

「母親のため? 妖怪退治は村の人のためだったんでしょ?」

「ああ、金治の第一の目標は妖怪退治だ。だがな、もう一つあったんだ」

「なあに?」

「それは、無事に家に帰ることさ」

 ――?

「母親はずっと金治の帰りを信じていた。無事を信じていたんだ」

 ――待て、待て待て

「村人は皆言ったさ。あんな妖怪を倒せるわけなんかないって。絶望的だって」

 ――これ、は?
「でも母親は信じ続けたんだ。金治は無事に生きて帰ってくるって」

 ――これじゃあ、まるで……

「金治もそのことを知っていた。だから金治は何度も立ち上がったんだ」

 ――まるで……

「ようするに、だな」



 ――信じることが大切なんだよ。人間っていうのは、さ。



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