Believe 〜大切なこと〜
声に出なかった。
デジャヴ。
衝撃。
無意識に答えを述べる自分。
その自分に違和感を覚える自分。
二人の自分の思考の矛盾がどろどろ渦まいて、気持ちが悪い。言っていることと考えていることが違う。整理しなきゃ。自分の思考。
この金治と母親の物語、まるで和也だ。金治が和也で、母親が俺。さっきだ。さっき俺は和也が病気を治す可能性が絶望的である現実をたたき付けられた。物語の登場人物に例えるなら、先生が村人。妖怪は和也の病気。
いや、違う。一つだけ全然違うことがある。
それは母親役の俺だ。俺は物語の母親のように金治が……和也が無事に帰ってくることを信じたか? 村人の言葉を完全に否定したか? 帰ってこないという、まだ起きてもいない未来に怯え、絶望しなかったか? 俺は、俺は――
「お、お兄ちゃん? どうしたの、泣いているの?」
和也が心配そうな顔で俺の体を揺すった。俺が急に喋らなくなったから焦ったみたいで。和也の言葉で気付いたが、俺の頬には一筋の涙が伝っていた。
――和也、俺ってお前の兄に相応しいか? 俺は村人のほんの小さな囁きに心を乱して、お前が無事に帰ってくる可能性を信じてやれなかった。お前がいない世界で暗闇を彷徨っていた。きっと、和也が俺の名を呼ぶまで、ずっと、ずっと。馬鹿だ、俺。信じなかったら奇跡なんて起きないって、わかっているのに――。
「でもお兄ちゃん、金治君のお母さんって本当にずっと金治君の帰りを信じていたのかなぁ」
「え……?」
再び和也が自分の意見を述べ始める。
「だって、やっぱり心配でしょ? 一度ぐらい、帰ってこないかもしれないって不安になったと思うよ。そしてそれは仕方がないことでもあるんだって、金治君もわかっていたんじゃないかな」
――和也? お前、俺が何を考えていたのかわかるのか? わかっていて、それで俺を励ましてくれているのか?
わからない。わからないけど和也の純粋な笑顔に救われている自分がいる。暗闇にずっと目が慣れなくて、光のお前に頼っているんだ。情けない。俺は何て情けないんだ……。
「なぁ、和也」
「なあに?」