甘く、甘い、二人の時間
「すみません、彼女を家まで送って下さい。」
運転手にそう告げ、彼女をタクシーに誘導した。
彼女は困った様に俺を見つめ
「あの、私…困ります!」
なんて言うから思わず笑ってしまった。
「何が可笑しいんですか?!」
だって、わざわざ口にしなくても表情を見ただけで気持ちが駄々漏れ。
しかも、笑われた事に腹をたてて抗議するとは、可愛い見かけと裏腹に気が強いらしい。
堪らないな、この子。
内心そんな事を考えていたが、努めて冷静に言葉をかえす。
「大丈夫、僕が一緒に乗るわけではありませんから、心配しないで下さい。ただその格好で電車に乗るのは躊躇うでしょうから、今日はタクシーで帰って下さい。」
すると、彼女は少し安心したようで。
顔から緊張感が消えていく。
本当に分かりやすい。
「…わざわざ、ありがとうございます。」
そう言いながらタクシーに乗り込もうとした彼女の手を掴み、その手に一万円札を握らせた。
「え!ちょっと」
彼女は焦って返そうとしたが、タクシーに押し込みドアを閉めた。