甘く、甘い、二人の時間

「すみません、彼女を家まで送って下さい。」


運転手にそう告げ、彼女をタクシーに誘導した。



彼女は困った様に俺を見つめ

「あの、私…困ります!」

なんて言うから思わず笑ってしまった。


「何が可笑しいんですか?!」


だって、わざわざ口にしなくても表情を見ただけで気持ちが駄々漏れ。

しかも、笑われた事に腹をたてて抗議するとは、可愛い見かけと裏腹に気が強いらしい。



堪らないな、この子。




内心そんな事を考えていたが、努めて冷静に言葉をかえす。


「大丈夫、僕が一緒に乗るわけではありませんから、心配しないで下さい。ただその格好で電車に乗るのは躊躇うでしょうから、今日はタクシーで帰って下さい。」


すると、彼女は少し安心したようで。

顔から緊張感が消えていく。


本当に分かりやすい。


「…わざわざ、ありがとうございます。」

そう言いながらタクシーに乗り込もうとした彼女の手を掴み、その手に一万円札を握らせた。


「え!ちょっと」


彼女は焦って返そうとしたが、タクシーに押し込みドアを閉めた。



< 24 / 209 >

この作品をシェア

pagetop