甘く、甘い、二人の時間
「楠木君。」

「…ぁ。部長、お疲れ様です。」



突然部長に話かけられて驚いた。


やっぱり会社にいる時に考え事はダメだな。

仕事に集中しないと。



「休憩中に話し掛けてしまって悪かった。」

「いいえ、大丈夫です。」



よし、集中集中。

そんな事を意識して、背筋をまっすぐに伸ばす。



「明後日から中国へ出張だったな?もう、準備は出来たのか?」

「はい、資料は全て整えてあります。」


「…そうか。楠木君、今回のプロジェクトが無事成功すれば、課長へ昇進間違いなしだ。――期待してる、頼むぞ?」


「はい。ありがとうございます。全力を尽くします。」



そう、今回のプロジェクトのリーダーに抜擢された俺の責任は重大だ。


そんなのは百も承知。

だけど、課長のポストが俺を待っている。

険しい道も何のそのだな。



一人ふつふつとやる気を増幅させている俺に、部長は少し表情を和らげてから言った。



「資料が出来ているなら明日は休んで構わない、ゆっくり出張の準備をしなさい。」





思いもよらない突然の休日。


部長にお礼を告げながら、頭に浮かぶのは、菫の顔だった。

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