誘い月 ―I・ZA・NA・I・DU・KI―



エレベーターの中で、私はこれから起こるであろう悲劇に怯えていた。


新様の家には、奥さんがいる。

そして…きっと私はあの綺麗な奥さんに殴られたり、罵られたりするんだ。


ううん、それだけでも足りないのかもしれない。

だって、私は奥さんが最も嫌がる最低なことをしたんだから。

愛する夫を他の女に盗られかけた。

その事実は、きっとこれからも奥さんの心に残り続ける。


罵られたり、殴られたりすることなんて、奥さんの悲しみに比べれば全然足りないんだ。

私は…それを受け止めるしかない。

そして、謝罪する。

土下座でも、何でもする。

きっと何をやっても許してくれないと思うけど、それでも。


謝罪しか知らないんだ、私は。

罪の償い方を。




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