誘い月 ―I・ZA・NA・I・DU・KI―



「結婚指輪だってほら、してないでしょ?」

『っ…、そ、んな……』


数秒、指輪なんかはめたことがない俺の左手を見つめた愛実は、徐々に俺の言ってることが理解できたらしく、泣きそうになっている。

泣かせたくて言ったんじゃなかったんだけどなぁ…。


「今日は、何で賢吾と彼女といたかと言うと――…俺の友達が、賢吾のパパでさ。」

『え…?』

「賢吾と遊んでたら、賢吾の様子がおかしくなり始めて、…そんとき、賢吾のパパは仕事が入っちゃってさ。俺だけ帰るなんてこと、できないじゃん?だから――…付き添いに行ったんだ。」

『……っ』


愛実の目尻に涙がうっすらと溜まっている。

ねぇ、それは嬉し涙だって、思っていい?

俺の自己チュウな考えが、君の涙を俺の都合の良いようにとらえてしまう。

だって仕方ないよな?

こんなにも、愛実が好きなんだから…――


『っ…私、なんてこと…!』

「クスッ…勘違いしやすいんだね、あゆみんは。」

『ッ、だって…だって…っ!』


目の前で必死そうに『だって』を繰り返している愛実に、俺は笑顔を零した。




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