誘い月 ―I・ZA・NA・I・DU・KI―
『えっ、おねーさん!?』
私が戻ってきて驚いた様子の王子様。
「ぁのッ…お名前をっ……お聞きしてもよろしいでしょうかっ?」
『ぇ、あ、名前っ?』
「は、はいっ!」
この際だから、お名前をお聞きしておきたい。
『えっと、俺の名前はね…――新(アラタ)。滝(タキ) 新ってゆうの。』
「あらた…新しいの、あらた…?」
『そう。いいの?急いでるんじゃ…――』
「あっ…!ぁぁああ、ありがとうございました!新様!」
『気をつけてね…ッて、様!?』
驚いている新様を背に、私は走って階段を駆け降りた。
やばいっ…!
王子様のお名前を聞けたのは良いけど、実にヤバいっ…!
怒ってる婦長はかなり怖いんだってーーっ!
学生時代、陸上部で鍛えた足で、頑張って走る。
徐々に見えて来た病院を前に速度を速めた。
私の仕事は看護師。
正看を取って2年。市立病院の小児科で看護師やってます。