誘い月 ―I・ZA・NA・I・DU・KI―
唯一の光だった満月も、分厚い雲に隠れて見えなくなった。
濡れた服。
気合いを入れたメイクも…もうボロボロだろう。
むしろ、この大雨でメイクは洗い流されている可能性のほうが高い。
「無様だ、私……」
今は、そうやって自嘲することしかできない。
いっそのこと、今の無様な姿を見て笑ってほしい。
何やってんだって。
またかよって笑ってほしい。
その方が…――
『…どうしたの?』
「····っ、」
いきなり、当たっていた雨が当たらなくなった。
今まで地面に落としていた視線をゆっくりと上げる。
灰色のスーツ。
スーツと同じ色のネクタイ。
整った髪と顔立ちの男の人。
私に傾けられた傘。
『風邪引くよ…?』
優しげな声で心配してくれているような言葉。
この人は…――