誘い月 ―I・ZA・NA・I・DU・KI―
それを見た瞬間、頭が真っ白になった。
あそこにいるのは誰…?
あの女の人は新様の…?
付き合ってるの?今からデート?
これからどこ行くの?って……
遠ざかっていく二人の背中を、ただ見つめるだけしかできなかった。
あの時の私には、
二人の関係を問いただすなんてゆう勇気…
持ち合わせてなかったんだ。
――『…それで引き返しちゃったわけか。』
「だっ、…だってぇ…っ!!」
怖かったものは怖かった。
もう私には、新様の隣にいける可能性なんて0に等しいってことが、はっきりと分かってしまうことが…
だから聞けなかった。
だから、聞かなかったんだ。
私は、私のために、
目の前の真実をボヤかしたんだ。
自分に有利な可能性を残した。
まだ、あの女の人が恋人じゃないっていう可能性を。
そんな可能性の根拠なんて、今の私には持ち合わせていないのに。