誘い月 ―I・ZA・NA・I・DU・KI―
『本当に、その人のこと、好きだったんでしょ?だから、そんなにも苦しい。』
「ッ…!!」
目の前にいる裕南が、急に大人っぽく見えた。
前は、あんなにも純白な少女みたいだったのに…。
何が、こんなにも裕南を変えたんだろう。
『私もね、愛実みたいな経験したことあるの。』
「ぇ…!?」
『私の場合は、浮気現場でね。でも、彼の本命は…私じゃなくてもう一人の女だった。私が浮気相手だったの。』
「そ、んな…酷い…っ!」
この世に、そんな卑劣な男がいるのかと思うと、怒りが沸いた。
二股なんて、最ッ低…!!!
『不幸にもね、上には上がいるのよ。私だってその時は辛かった。苦しくて、彼を憎んだことだってある。だけど、負からは何も始まらない。何も生まれないことを、愛実は知っているでしょう?』
息が詰まって、返事は頭を縦に振るだけだった。