【短編】未亡人の彼女と高校生の僕
「すみません。なんか親父が失礼なこと言って」
「いえ」
彼女は、首を横に振りながらも、少し面食らったようだった。
「今の、お父さんなんだ」
「ああ、うん。いつもあんな調子で。あ、それより。家はここから遠いんですか?」
「いえ。それほど。歩いて帰れますから」
「送りますよ」
「いえ。本当に。大丈夫ですから」
「そうですか」
彼女は、とうに走り去った親父のトラックをまだ目で追っていた。
「あの親父は、本当に困りものです。悪い人ではないんですが、デリカシーがない」
彼女は何も答えなかった。
遠くを見つめる彼女の表情に、どこか侘(わび)しさを感じた。
僕には立ち入れない何か、闇のような、そんなものをふと感じたのだ。