夏の空~彼の背中を追い掛けて~
もう一度
紅葉が色濃く染まった10月。
休み時間にボンヤリとヒツジ雲を眺めていると、紀香が声を掛けてきた。
「真弥、ベル貸して~♪」
未だにポケベルを持っていない紀香は、良く私のベルを借りて、制服のポケットに忍ばせている。
殆どの人が先生の目を盗み、授業中にも関わらずPHSでメッセージを送っていた。
勿論、紀香はPHSも持っていない。
人として、1度は皆と同じ事をしてみたいと思うもの。
だから私ので良ければと、申し出があった時は貸している。
「今、バイブになってるけど、サイレントにする?」
「んそのままで良い」
「分かった。はい、どうぞ」
「有り難う♪」
ベルをポケットから取り出し手渡すと、紀香は嬉しそうに席に着く。
授業中にベルが鳴ったら、もっと喜ぶかも知れないけど、今はベル友は居ない。
メッセージをくれるのは、俊ちゃんと女友達だけ。
だから授業中にメッセージが届く確率は低い。