亡國の孤城 『心の色』(外伝)
青い片思い...(クロエ=サロエ)
―――名を名乗ると、必ず皆、口々にこう返してくる。
それは女の名前ではないか、と。
………認める。女性によくある名前だと認めるが………そんな事言われても仕方無いじゃないか。
名前なんだから。
私の名前は私が決めるものじゃない。
変えられるものなら当の昔にやっているとも。
しかし変えようとすれば、母上が涙ながらに「あげた名前を捨てるだなんて…母が嫌いなのですか貴方は!!」なんて言って喚くのは火を見るよりも明らかだ。
……騒がしいのは嫌いなんだ。
頭痛持ちでね。
しかもファーストネームとファミリーネームが、『クロエ=サロエ』と似ているものだから……気が知れた友人なんかはからかってくる。
「おい、クロサロエ」
「おい、サロエクロエ」
「おい、サロエ。………あ?どっちが名前だっけ?」
………ムキになって怒るのにも、訂正するのにも、正直…疲れた。苦笑しか浮かべられない。
だからとりあえず、「何かな?」と受けている。
どうしようも無いから、もうどうでもいい。
からかうなら好きにしてくれ。
私は怒りも喜びも悲しみもしないよ。
とりあえず苦笑しておくよ。
名前で悩む人生。
これからもきっとそうに違いない。
………そう思って諦めていた私の前に………たった一人だけ、違う答えを返してくれた女性がいた。
彼女はその綺麗な笑みを向けて、言ったのだ。
「……素敵な名前ですこと」