Adagio
ピアノ椅子から勢いを付けて立ちあがったその足は照明のせいか雰囲気のせいか、病的に細く見える。
ファンデーションのムラが無い白い顔とラインストーンのぎらつく黒い爪が、それぞれ別々の生き物のように浮き立っていた。
「制服だって真面目に着てるし、髪型だって超地味だし。絶対に“あっち側”の人だって思うのに」
どうすればいいの?
今まで化け物みたいだと思っていた太いアイラインを引いた目も、ジャラジャラとピアスが揺れる耳も、着崩され過ぎた制服も。
すべて苦手な優しさから遠ざかるためのものだったとしたら、どうだろう。
その体を抱きしめようとした自分の腕が直前で思いとどまって、結局肩を抱き寄せるだけになった。
「アタシが近づいたら向こうも近づいてくれると思う?それともまた、離れていくだけなのかな」
この学校には珍しい格好で、先生に何度注意されてもみんなに避けられても態度を改めようとはしなくて。
その正体は、なんて不器用な少女だったんだろう。