Adagio
そう言っていたのに、あいつは――。
「…っ」
何も考える気分になれなくて、頭に蓋でもしてしまいたい。
なのに脳内を駆け巡るのはコンクールの課題曲と自由曲のメロディ。
ウザったいあいつの声。
あぁ、こんな無駄なことを考えている間にピアノの練習をしないと。
もっと練習しないとコンクールで優勝できない。
コンクールで優勝できないと順調な人生を送れない。
まだやらなければいけないことはたくさんあったはずなのに、次第に瞼が重くなっていく誘惑に抗えず、俺は目を閉じてしまった。
自分の演奏がつまらないものだなんてことは、自分が一番よくわかってる。
わかってるから、変えようとしてるんだ。
でも、どうしても変えられないんだ…。