Adagio
だけど保健室の前まで来て、中に入る気が無くなってしまった。
「センセー、お腹超痛い。休ませて」
保健室の回転イスをくるくる回しながらいかにもな仮病を使っているのは、ついさっきまで俺と言い争っていた声の持ち主。
ここで堂々と保健室に入れるほど図太い神経の持ち主でない俺は、仕方なく屋上へ続く階段へ向かった。
普通なら教室に戻るのだろうけど、そこまでするだけの体力もその時は無かった。
駒田が保健室へ行った旨を先生に伝えてくれるだろうし、そこで時間をつぶそうという考えだった。
大体の高校がそうだろうが、万が一のことを考えて四葉高の屋上は常に閉鎖されている。
ドアの前の階段に腰を下ろし、視線の先にある外の景色をじっと見つめているとそれまで溢れださないように堰き止めていた虚しさが込み上げてきた。
まだ熱の引かない頬を擦りながら小さく舌打ちする。
思い切り引っぱたきやがって。
でも彼女にそうさせたのは俺なんだ。
あの最低な彼氏でも、彼女に話しかけたというクラスの女子でもない、この俺自身。