Adagio
そう言うと先生はすたすたと通り過ぎて行ってしまった。
あまりに拍子抜けの出来事に驚きが隠せなくて、思わず声が飛び出す。
「な、何も言わないんですか!?」
ゆっくりと振り返った先生の顔は無邪気なのにどこか妖艶で、不思議な光を湛えていた。
「何か言って欲しかったのかい?」
「いえ、そういうわけじゃ、ない、ですけど…」
だっておかしいだろう。
教師という立場にいるのに、生徒のサボりを目撃しても見逃すなんて。
「そう言えば、前言ったことの意味がわかったみたいだね」
「え?あぁ…」
周りの人の流れを見ろと言った、あれか。
確かにわかった、あの時は。
だけど…。
「…また、わからなくなりました」
昨日見つけたあたたかい気持ちや光なんて、今はもうどこにもない。