Adagio
黙ったままでいる俺に彼女は笑ったまま、部屋から出ていこうとしなかった。
その優しさが余計に俺の傷口を抉って。
いつも噴き出す寸前で止まっていたものが全部、傷口から血と一緒に溢れだす。
「お前のせいだろ」
いつになく低い声で言い放つと、若菜は目を見開いて硬直した。
自分が何をしたのかまったくわかっていない、無垢な瞳が痛い。
「…私、何かした?」
あぁ、こんな風に言うつもりじゃなかったのに。
もっと爽やかに、もっと優しく、ささやくように言うつもりでずっと心の奥にしまっていたのに。
結局それを使う日なんてこれまで来なかったのだけど。
「…っ俺はずっと、若菜が好きだった!!」