Adagio
あまり長く居座られると迷惑だ。
話しかけたくはなかったけれど、俺は渋々口を開く。
「帰ってくれないか。練習に集中したい」
「は?だってアンタ、ちっとも集中してないじゃん」
ほら、だから会いたくなかったんだ。
こいつと話したってイライラするだけなんだから。
「さっきから部屋の外で聴いてれば、子犬のワルツだの結婚行進曲だの血迷った曲ばっかり。音楽科ってそんな曲ばっかりやってんの?」
「うるさい!そっちこそ昨日の合唱の追試はどうだったんだよ」
「あれねぇ、サボったよ」
は?サボった?
「あの後彼氏からメール来てさ。デートしよって言われたからデートしに行った」
合唱の追試より彼氏とのデートが大事だっていうのか。
信じられない。
追試なんだからサボってしまえば後が無いだろうに。