Adagio
会話が終わったかと思えば、奏がいきなり顔をずいっと近づけてくる。
「…何」
「だから、アンタの名前!」
「名前…。どうしても教えないと駄目か?」
今までの業績を思い出してため息をつく。
あんまり騒がれるのも困るんだけどな…。
「北浜利壱(キタハマ リイチ)」
「ふぅーん。偉そうな名前」
え、おい、ちょっと待て。
一瞬息を止めた俺に、奏はケータイを手放さないまま首を傾げる。
「何?」
「お前もしかして、俺のこと知らないのか?」
「知るかよ、初対面なのに」
それは俺の自信を木端微塵に踏み砕く言葉だった。