Adagio


しばらくぐるぐると視線をさまよわせた末に、まだ整理しきれていない言葉を声に出す。

「えっと、奏が怖いとは思わないんですか」

「どうして?」


細い首をきょとんと傾げて彼女が問う。

「悪い噂だって、たくさん聞いてるでしょう」

いわばこれは彼女を試す行為だった。

女子の間で友達の好きな人を品定めするような行為。


そういえばついさっきの沢渡の行動も、それに酷似していた。

「奏ちゃんはきっと、すごく不器用な人です。自分のことをああいう形でしか表わせない」

きっと、という不確かな言葉が2人が仲良くなってからの時間の短さを思わせる。

だけどこれから2人の付き合いがもっと長くなっていくだろうことは、想像に難くなかった。


「そんな不器用さも含めて、奏ちゃんのことが大好きです。これからもっと仲良くなりたい。それで、みんなにも奏ちゃんの良さを知って欲しい」


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