Adagio


沢渡の発言に首を傾げながら帰路を歩いていると、以前奏と帰った分かれ道で奏が待っていた。

「やぁっと来たぁ」

待ちくたびれたようにぼやいて、俺との距離を詰めてくる。

言い淀むように間を空けて、

「ねぇ、歌花になんか言われた?」


特に何も言われてないと言おうとして、少しだけ好奇心が疼く。

「まぁ…言われたと言えば言われた」

「え、な、何それ!?うわ、最悪!歌花今度シメてやるし!」

このまま放っておくと沢渡にも被害が及びそうで、早めに種明かしをする。

「冗談。別に大したこと言われてない」


本当は最後に謎めいた一言を残されたけど。

途端に奏が安堵に満ちた笑みを浮かべる。

「なんだ、おどかさないでよ!サイテー!」

「…なぁ、奏」

「何?」


これを言うタイミングは、今で合っているのだろうか。


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