Adagio


俺はこれまで何度も奏に助けられてきた。

誠意のかけらもなかった俺の演奏を指摘し、正してくれたこと。

折れそうな時、逃げたい時、いつも何かしら言葉を投げかけてくれたこと。

それらのことにはもちろん感謝しているし、お節介だとも思わない。


だけど前に進むためには、こうすることも必要なんだ。



「明日から、一人で練習させてほしい」

言葉を慎重に選びながら、傷つけないように誤解されないように。

「あと2ヶ月、集中する時間が必要なんだ。だからそれまで、奏とは会わない」


顔を上げるのが怖かった。

怒られたらどうしようと怯えながら、地面を見つめるしかできなかった。

けれど何とか勇気を振り絞って顔を上げた瞬間――。


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